魯迅は、『阿Ｑ正伝』『狂人日記』などの小説と、上海で書店を開いた内山完造との交友で知られています。しかし、これをたんに過去の遺産としてだけ見ることはできません。魯迅逝去後７３年の現在においても、なお新しい事実が見つかるからです。しかも、上海だけで片づけることができない何かが二人の間にあり、そこには人間的に見た面と、地縁的に見た面が複雑にからまりあっています。しかし、私たちの地元である後月郡の山村にその場があるとは、予想だにしていませんでした。 　そもそも、今では山村のその旧家にたどり着くことすら難しい場所です。狐狸が棲むその廃屋から出てきたものは、上海の完造からの書簡と写真、そして江戸、明治からのおびたしい文書でした。 　これらの資料が何をものがたるのか、後月郡高屋町丹生の山里は何を訴えるのか。その一端をお話します。